【コラム寄稿】建設業の働き方改革
日本建設業連合会の適正工期確保宣言
2023年7月21日、日建連が以下の適正工期確保宣言を行いました。
日建連会員企業は、建設業の働き方改革を推進し、担い手確保を図るとともに、労働基準法に則り適正に工事を進めるため、発注者に対し見積書を提出する際に、工事現場の4週8閉所、週40時間稼働を原則とした適切な工期(以下「真に適切な工期」という。)に基づき見積りを行い、工期・工程を添付するとともに、発注者の理解を得るための説明を徹底する。 また、協力会社から真に適切な工期を前提とした見積りがなされた場合には、当該見積及び工期・工程を確認した上でこれを尊重する。
日建連とは、一般社団法人日本建設業連合会のことをいい、建築や土木など一式工事を行う総合建設会社で構成される業界団体です。
ここでは、「4週8閉所」「週40時間稼働」を原則とした適切な工期の設定のための見積を行い、工期・工程を添付すると宣言しています。
この背景には、建設業においては働き方改革関連法による労働基準法の改正の適用が2024年3月31日まで猶予されていたのが、2024年4月1日から適用されることとなるという、「建設業の2024年問題」があります。
建設業の2024年問題
2018年7月6日、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)により労働基準法が改正され、2019年4月1日(中小企業では2020年4月1日)より、以下の定めが施行されています(法附則1条(平成30年7月6日法律第71号)。
- 法定労働時間
1日8時間及び1週間40時間(労働基準法(以下「法」といいます。)32条)。 - 36協定(法定労働時間を超えて労働させる場合、法36条による労使協定を締結し労働基準監督署に届出)で定める時間外労働の限度時間
(原則)1か月45時間及び1年360時間(法36条4項)。
(例外)当該事業場における通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合(臨時的な特別の事情のある場合。法36条5項)- 時間外労働、休日労働を含めて1か月100時間未満
- 時間外労働は1年720時間以内
- 月45時間を超えることができる月数は1年に6か月以内
- 時間外労働と休日労働の合計について「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」全て1月当たり80時間以内(法36条6項3号)
- 上記に違反した場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(法119条)
図1.働き方改革関連法による労働基準法の改正
改正前は、36協定で定めている時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって上限の基準が定められていましたが、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることが可能でした。また、厚生労働大臣の告示による上限の基準は、罰則による強制力がないものでした。
これに対し、改正後は、罰則付きの上限が法律に規定され、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられたこととなります。
もっとも、建設事業については、2024年3月31日までは、36協定で定めさえすれば、上限の規制(上記に(原則)、(例外)と記載した両方)は適用されないこととされていました(法139条2項)。[注1]
そこで、建設業に関しては、2024年4月1日からは、労働基準法の時間外労働の上限規制が全て適用されることになります(ただし、災害時における復興及び復興の事業については、上限規制のうち、時間外労働と休日の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されないこととされています(法139条1項)。)。
このように、建設業においては2024年4月1日以降、臨時的な特別の事情がない限り36協定を締結しても法定時間外労働は月45時間、年360時間を上限としなければならないこととなり、臨時的な特別の事情がある場合でも上記に記載した(例外)の規制を遵守しなければなりません。
図2.2024年4月以降の取扱い
ところが、日建連が調査したところ、2021年度の会員企業の法定時間外労働を月45時間以内、年360時間以内とする上限規制の達成状況は約4割、臨時的な特別の事情のある場合の上限規制の達成状況は約7割にとどまるとのことです。
このような状況を踏まえ、2023年3月29日、斉藤国土交通大臣、建設関係4団体(日本建設業連合会、全国建設業協会、全国中小建設業協会、建設産業専門団体連合会)との意見交換会があり、3月30日、国土交通省不動産・建設経済局建設業課長は、4団体に対し、「建設業において時間外労働の上限規制の適用が令和6年4月と、あと1年に迫る中、建設業の働き方改革に向けて、全ての関係者が週休2日(4週8閉所等)の確保などにより工期の適正化に取り組むこととなりました。」「貴職におかれましても、技能労働者の賃金上昇や働き方改革に向けた取組をそれぞれ進めるとともに、傘下の建設業者等に周知していただきますようお願いいたします。」との要請をしました。
法定外労働時間月45時間以内、年360時間以内を達成するためには、週休2日(現場の4週8閉所等)が重要となりますが、国や地方公共団体が発注する工事については、週休2日工事を前提とした工期や費用を確保した発注が増えているのに対し、民間発注工事においては、週休2日工事の普及が遅れています。
そこで、日建連は、時間外労働の上限規制という新しい規制に対応するため、民間の工事の発注者に週休2日工事の重要性・必要性に関する理解を深めてもらう説明を行い、可能な限り週休2日工事を前提とした工期の確保がされた契約の締結を推進する必要があるとし、見積書を提出する際に、「工事現場の4週8閉所、週40時間稼働を原則とした適切な工期に基づき見積を行い、工期・工程を添付するとともに、発注者の理解を得るための説明を徹底する。」との宣言を行っています。
働き方改革を実現するための施策
国土交通省では「建設業働き方改革加速化プログラム」において、働き方改革に対応し、以下の施策を定めています。
- 長時間労働の是正
直轄工事において、週休2日制の導入を推進。地方公共団体においても働き方改革の取組が浸透するよう地域発注者協議会等の場を活用して働きかけ。
週休2日の実施に伴い、労務費、機械経費(賃料)、共通仮設費、現場管理費について、現場閉所の状況に応じて補正係数を乗じ、必要経費を計上。 - 給与・社会保険
技能と経験にふさわしい処遇(給与)と社会保険加入を実現する。そのための建設キャリアアップシステムにより、技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する。これにより技能者の能力評価制度の構築を行う。技能者の能力評価をもとにした技能者の適切な処遇の実現を図るとともに、所属する技能者のレベル・人数から専門工事企業の施工能力等の見える化をする。 - 生産性の向上
i-constructionの推進等を通じ、建設生産システムのあらゆる段階におけるICT(Internet of Things。モノとインターネットをつなぐ等の技術)の活用等により生産性の向上を図る。
建設用機器に通信技術を搭載することによって自動制御や操作補助が可能となったICT建機(ICTはInformation and Communication Technologyの略で、情報通信技術のこと。)の活用を進めるため、これまでICT単価はICT建機の使用割合を一律25%で設定していたところ、ICT建機のみで施工する単価を新設し、通常建機のみで施工する単価と区分し、ICT建機の稼働実態に応じた積算・精算を可能とする。
ヘルメットにカメラを取り付けたウェアラブルカメラによって遠隔からのリアルタイムでの現場の状況の把握やタブレットの導入によるペーパーレス化といったモノとインターネットをつなぐIOT(Internet of Things)技術の導入により施工の効率化を図る。
建設労働者の多くは日給制で雇用されているため、4週8閉所を実現すると稼働日が減少し、収入の減少します。そこで、月給制への移行、休日による給与減少分の補填などの対応が必要となってくると思われます。1.に記載した労務費、機械経費(賃料)、共通仮設費、現場管理費について、現場閉所の状況に応じて補正係数を乗じ、必要経費を計上することは、この観点からも大切になってくると思われます。
人手不足への対応
週休2日を実施すると、その分、建設工事の工期が延び、現在以上に労働者の人手不足が進むことが想定されます。その結果、建設業者の受注能力の減少も想定されます。
対策として、建設業の労働者の供給を増やすこと、施工の生産性を向上させることが求められます。
特に、都市部の大規模再開発や郊外の物流施設の建設が進んでおり、工事の量は減少していませんが、技能労働者の供給については、総務省「労働力調査」をもとに国土交通省が作成した技能者の推移の資料[注2]によると平成9年に455万人、平成22年に331万人、令和3年に309万人と減少が長期的に継続しています。
人手不足に対応するには、労働者の処遇の改善により労働者の減少を抑制していく必要があり、そのためには、専門工事業者の施工能力の見える化や技能労働者の適切な処遇の実現を図ることにより、能力の高い専門工事業者や技能労働者を増やす施策をとることが不可欠と思われます。
[注1]建設事業のほか、自動車運転の業務、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業については、2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予されています(法140条乃至法142条)。
[注2]出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」(リンク)
寄稿者紹介
富田 裕(とみた ゆう)弁護士
1989年東京大学法学部卒業後、建設省(現・国土交通省)入省。
1996年同大学院建築学専攻修了。一級建築士。
2012年TMI総合法律事務所。
2020年パートナー就任。