【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
調査報告書全文
調査結果詳細
調査概要
調査結果(サマリー)
Ⅰ 【労働時間】週休2日希望者は増加傾向 |
Ⅱ 【収入】回答者の80.3%が「過去1年で年収が上がっていない」 |
Ⅲ 【建設業の魅力と課題】建設業は「やりがい」のある仕事 |
Ⅰ.【労働時間】週休2日希望者は増加傾向
2019年4月から施行された「働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」によって、時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられました。
※ 建設業においては2024年4月から適用
また、上記時間外労働上限規制を踏まえ、国交省では直轄工事における週休2日モデル工事の拡大に加え、地方公共団体、民間発注者、建設業者へ週休2日の働きかけ等を実施しております。
建設業全体の労働時間改革が進む中、今回助太刀総研では休日数や休日に対する考え方について
事前調査を実施し、以下の調査結果となりました。
- 週休2日の確保状況
隔週で週休2日を確保できている回答は半数以上を超えているものの、4週8休(週休2日)
以上休日を確保できている回答者は15.3%に留まりました。
図1.4週間における休日確保の実態
年代ごとで見ると、年齢が高齢になるにつれ休日確保数が増加しております。
結婚や育児等の家庭での時間等、ライフステージの変化等も影響しているのかと考えられます。
図2.年代別_4週間における休日確保の実態
入場現場規模で休日数を比較すると、大規模現場入場者は中小規模現場入場者より
4週6休(隔週で週休2日)以上休日を確保できている回答者が13.4%多くなりました。
入場現場規模が大きいほど、行政や大手建設会社の休日確保の取組が進んでいるといったことが
上記調査結果の傾向から考えられます。
図3.入場現場規模別_4週間における休日確保の実態
- 週休2日に対する考え方
週休2日を確保したい回答者は全体の62.3%を占めました。なお、2022年1月に弊社で同様の
調査を実施したところ、週休2日希望回答者は52.4%の結果であり、2022年1月の前回調査より
週休2日希望者が9.9%増加する結果となりました。
図4.週休2日確保に関する希望
年齢別では30代以上から週休2日希望者が増加傾向となりました。
30代以上は家庭を持つことによるワークライフバランス等、生活環境の変化も
週休2日希望者の増加に繋がるのではないかと考えられます。
図5.年代別_週休2日確保に関する希望
Ⅱ.【収入】回答者の80.2%が「過去1年で年収が上がっていない」
各産業で賃上げの動きが加速している中、建設業界においても第7回 物価・賃金・生活総合
対策本部(令和5年2月24日開催)で国土交通大臣と建設業団体の間で概ね5%の
賃上げを目指すことを申し合わせました。
そこで、昨今の賃上げ推進の流れを踏まえ、実際に建設業従事者の収入は上がっているのか、
収入についても調査を実施し、以下の結果となりました。
- 過去1年の年収額
厚生労働省が実施した令和元年賃金構造基本統計調査によると、年収1,000万円以上稼いでいる
労働者は20代で0.0%以下、30代で0.6%となっております。
今回の調査においては、建設業は年齢に関わらず高い収入を得ることができる
業界である一面が見て取れました。
一方で年齢が上昇することによる年収分布の違いは見られませんでした。
図6.年代別_過去1年の年収額
- 過去1年の年収増減(図4)
過去1年の年収が上がったかどうか確認した結果、全体の80.3%が「過去1年で年収が上がっていない」と回答がありました。
図7.過去1年の年収増減状況
また、年齢別で確認した結果、20代では34.6%が「上がった」と回答したものの、
30代以降は年代層が高齢になるに連れ、「上がった」の回答に減少傾向が見られました。
職人として、一定の経験を積むと30代でも早期に収入が頭打ちになる傾向も考えられます。
図8.年代別_過去1年の年収増減状況
なお、年収が上がった方は要因として取引先の拡大や工事単価の交渉、年収が下がった方は要因として、物価高による費用負担の増加が多くあげられました。
Ⅲ.【建設業の魅力と課題】建設業はやりがいのある仕事である
「労働時間」や「収入」について調査を実施しましたが、建設業従事者が「建設業の魅力と
課題をどのように考えているか」についても調査を実施し、以下の結果となりました。
- 建設業界の課題は仕事に対する適切な賃金、仕事の安定、3Kの改善
建設業界の課題として、「仕事に対する適切な単価」に対する意見が最多となりました。
「適切ではない」と回答した背景には更なる課題が含まれていると考えられます。
「自分自身の技術力や現場経験が収入に反映されていない」、「労働環境の過酷さを考えると
自分の収入は割りに合わない」、様々な要素があると考えられます。改善できることは
早急に改善すべきであると考えますが、一方で例えば、取引先が固定される中で求める
(求められる)工事内容も単価も同じといった場合、発注する側、発注される側、
それぞれの立場で事情があるかと考えられます。発注する側、発注される側の事情を踏まえた上で、どのような選択肢を持てるのか、
理想だけではなく現実的な妥協点はどこなのかといった点も課題解決として検討する
必要があると考えられます。30年間受注単価が変わっていないなどの意見もあり、自分自身の技術力や経験が収入に
反映されていないと感じている方が多数いることがわかりました。また就労環境などの労働環境に比して収入が適切でないという意見も見受けられました。
職人の技能データを蓄積し、技術や経験に応じた労務単価の明示と浸透が
必要であると考えられます。
図9.建設業の課題- 建設業界の魅力は「やりがい・達成感」、「自分の能力次第で稼ぐことができる」
建設で働く魅力として、「やりがい・達成感」に関する意見が最多となりました。
お客様への提案から工事の完工まで、お客様の喜んだ顔が見れる等、自分自身の
仕事で人を喜ばせることができることにやりがいや達成感を感じるといった意見が多く挙がりました。
また、「自身の能力次第で稼ぐことができる」といった回答も多数あり、年功序列関係無く、
自分自身の技術や頑張りで稼ぐことができるといった声が見られました。図10.建設業の魅力
調査を振り返って
労働時間に関して、「休みを減らしてでも収入を増やしたい」という仮説も調査前には
考えられましたが、実際の回答では「週休2日を確保したい」という意向が全体の62.3%を
占めました。
さらに、「週休2日を確保したい」と回答した割合が、2022年1月に実施した当社調査から
9.9%も増加し、国全体で働き方改革への関心が高まっている兆候と見て取れます。
特に30代以上の回答者において、「週休2日を確保したい」という意識が高まっており、
これは仕事と家庭の調和など、生活価値観の多様化に起因している可能性があります。
収入については、建設業界は20代から高収入を実現できる点が特徴であり、他業界と比較して
魅力的な要素と考えられます。
ただし、他産業の会社員とは異なり、年齢とともに収入が右肩上がりに上昇する
賃金カーブではなく、一定の経験を積んでも収入の上昇が停滞するという傾向となりました。
本調査を通じて、回答者の多くが「自身の仕事に見合った対価を受けていない」という問題意識を
持っていることが感じられました。もし「自身の技術や経験に見合った対価を受けていない」と
感じる場合、発注側は客観的かつ適切に単価を支払うことが重要ですが、受注側も「相手から
どのような工事を求められるか」や「自分の技術や経験をどのように活かせるか」という視点を
持つことが必要であると考えます。
また、建設業界で働く魅力には「やりがいと達成感」や「モノづくりの楽しさ」等と
いった要素も含まれていることが調査結果から見て取れました。
労働時間や収入だけでなく、「働きがい」や「仕事の裁量」、「技術向上と獲得」等も
働く上での重要な要素であり、建設業界のアピールポイントになると考えます。
助太刀総研では今後の調査・研究を通じて、建設現場で起きているリアルな実態を把握し、
「建設現場を魅力ある職場に」寄与していければと考えております。
助太刀総研 運営事務局
Sukedachi Research Institute