建設リーダーズ

「建設リーダーズ — 建設業の未来を語る」 (一財)建設経済研究所 佐々木理事長インタビュー:前編  〜建設業の教育の未来、個社頼みではなくて業界全体で教育システムを〜

 助太刀総研は、「建設現場を魅力ある職場に」をミッションとして定め、建設業界の潮流を捉え、現状や可能性をあらゆるデータを用いながら可視化し、未来における建設業界の在り方を発信することを目指しております。今回から建設業界の課題や展望について、業界の有識者をお迎えし、助太刀総研所長である北川がお話しを伺う「建設リーダーズ ー 建設業の未来を語る」をスタートいたします。

 記念すべき第一回目は、(一財)建設経済研究所(通称:RICE)理事長の佐々木基さんに「建設業界の教育・働き方の多様化について」お話をお伺いしました。


<プロフィール> 佐々木 基 (一財)建設経済研究所(通称:RICE)理事長
国土交通省土地・建設産業局長、国土交通審議官等を経て内閣府地方創生推進事務局長を務める。
建設業振興基金理事長在任時は建設キャリアアップシステム(以下略CCUS)の普及に尽力。
2022年より現職。

<プロフィール> 北川 憲二郎 助太刀総研所長
ゴールドマンサックス証券、ドイツ証券、シティグループ証券等を経て2024年4月当社取締役CFO就任し、ファイナンス、経営戦略業務等を推進。
また、助太刀総研所長として、外部の有識者及び第三者機関と共に建設業界の実態調査や働き方に関するフォーラムを実施。


建設経済研究所(RICE)とは

北川:本日はご多忙な中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。長年にわたり、建設業界を牽引されている佐々木さんのお話しを聞けることを嬉しく思っております。ぜひ忌憚なきお話しを伺えればと思っております。

佐々木:はい、よろしくお願いします。

北川:まず最初に、建設経済研究所ではどのようなことをされているのかお伺いします。

佐々木:建設経済研究所では建設投資の見通しを業界の皆さんにお知らせし、仕事に役立ててもらうことを基本業務としておりますが、それに限らず、業界全体の成長を支えるための多種多様な情報提供や分析・調査にも努めております。

特に最近では、「将来、人材はどうなるのか」、「インフラの老朽化をどうしていくか」等、建設業のこれからについて皆さんの関心に応えられるよう調査・分析し報告しております。

北川:毎月さまざまなレポートを発信していただき、私たちも大変参考にさせていただいております。見通しがあるとないとでは、業界の経営判断に大きな差が出ますからね。特に長期的な視野での示唆に役立っています。

人の確保と教育が建設業の最大の課題
〜個々の企業まかせではなく、建設業界全体で教育システム構築を〜


北川:建設業界には様々な課題があると思います。その中でも佐々木さんが特に問題だと考えることは何が挙げられますか。

佐々木:業界の方々、特にゼネコンの方々と話をしていると、もちろん資材の高騰もありますが、人手不足については本当に危機的状況にあると肌で実感します。求められる仕事はあるのに人手確保の見通しが立たなくて受注ができないケースも増えてきております

このことは決して一時的な話ではなく今後も続いていくと考えられます。

このような状況に長期的に対応していくためには、人をどのように確保して、教育していくかが今後の重要な課題になってくると考えています。

北川:人の問題は様々な問題があると思います。そもそも「建設業界に入りたい」と思っている人が少なくなっている問題もありますし、後は熟練工と呼ばれる方々が引退された際、技術継承がなくなってしまう問題もある。業界の魅力の話と教育の話、両方あると思います。教育に関する話で建設技能者、職人さん向けの教育に関する課題として大きなものはどういったものがあるでしょうか。

佐々木:そもそも、日本全体で若年層の人口が減っていて、工業高校も減少しています。そうなると必然的に工業高校への入学者も減ってきて建設業自体への入職者もますます減っていくことになります。したがって入職者の多様化も図らなければなりませんが、同時に、限られた入職者は大切に育てなければなりません。

人が減れば減るほど、少ない人材にお金を投資して育成していくべきだと考えますが、それを個々の企業にお願いするのは限界があると感じています

今の個々の企業は、若い人に実際に働いてもらいながら同時に教育している状況だと考えられます。つまり賃金を払って、かつ教育費も負担しているという状況です。

働いてもらった上に、教育も行い、更にそのコストも払うというのをすべての企業がやり切るというのは限界があると感じており、何らかの新しい仕組みを業界全体で考える必要があると感じています。

例えば、個社の取り組みを超えた教育訓練として、地域、職種、グループ企業ごと等の共通のプラットホームを用いた教育・訓練なども考えられます。現在、富士教育訓練センター、三田建設技能研修センター、広島建設アカデミー、大林組林友会職業訓練校などの教育訓練施設がありますが、こういったものの活用の仕方も、もっと考えていかなければならないでしょう。

また、複数の職種を学んでもらえれば、様々なことに対応できる職人(多能工)を育成できます。そうすることで、例えば災害が起きた際に流動的に人手を回すことも容易になっていくと考えます。

人手が減っていく中では、人材の流動化は一つのキーワードになってくると考えますが、そのためにも共通のベースとなる教育をしっかりしていかないといけないということだと思います。

教育にも新たな技術を

北川:製造業の現場ではDXやVRなどが導入され、技術革新が進んでおります。建設現場でもDX化が進むことでイメージなどの変化はありますでしょうか。

佐々木:当然、建設現場でもDX化は進めていくべきです。今までは、親方や先輩の動きを見よう見まねで取得していたため、育成にも時間がかなり費やしていました。しかし現在は、いかに早く一人前に育てられるか、効率が求められるようになっています。

現に、現場に入る前に若い職人に動画で動きを学習させてから、実際の作業に移行していく左官の会社もでてきています。

北川:親方や上司について、マンツーマンで腕を磨いていくのではなく、動画で効率よく教育していくことが主流になりつつあるんですね。

佐々木:また、最近では動画だけでなく職人によっても作業方法にクセがあったりするので、動作分析や解析をしてくれるシステムを作成しているベンチャー企業なども誕生してきております。

北川:そこまで技術革新は進んでいるんですね。DX化が進むことで、業界全体としても効率が上がるだけでなく、業界の魅力向上も期待できますね。

誰もが憧れるスター職人の出現が業界を変える

北川:育成の観点でいうと、経験や技能を評価する制度として建設業キャリアアップシステム(CCUS)があると思います。よく現場の方から言われることとして「何をしたらレベルが上がっていくのか?」「レベルが上がった際にどのように処遇や待遇が変わっていくのか?」などが挙げられます。

レベルを上げるためのスキルをつける、教育をする動機付けが弱いのではないかと考えます。これは個人的な考えですが、例えば、CCUSをドイツのマイスター制度のような形に作り上げて、職人の皆さんがCCUSを登録して、その制度の中で教育も受けられて、かつちゃんとレベルをつけて、その方々はちゃんと賃金にレベルが反映されれば、制度が回りだすかなと。最初に作り出すところが難しいのかなと思いました。

佐々木:業界の方々と集まって話すと必ず「昔はよかった!」と言う話になります。私の世代が働き始めた当時(4〜50年前)は職人の方々は給料もサラリーマンの倍以上もらっていた時代でしたからね。飲み屋でも「よくサラリーマンなんてやってられるな。職人はいいぞ」と言われたものです。また、「あの先輩のように頑張れば、立派な豪邸が立てられる」、と腕をみがき経験を積んだ職人のステータスが目標にもなっていました。

今の時代にも「職人のスター・ロールモデル職人」が出てくると若い世代の方からも建設業界は夢があると思ってもらえるのですが。

スーパー職人の証、ゴールドカード

佐々木:ものづくりは魅力的な産業であると思っています。建設業のイメージに関するアンケート調査でも、建設業界に若干でも触れたことがある人は「3K」(きつい、汚い、危険)よりも、『世の中のためになれる』『名前を残すような仕事ができる』ことに魅力を感じ誇りを感じている人が多くいました。ただ、他の業界より給料が低いとなると、自分の世界はこんなものだと思ってしまいます。

北川:立派なことをしている割にはそこまで社会的評価がついてきていない点は課題としてあるかと思われます。そのような立派なことをされている職人さんがしっかりと評価されていく仕組みは今後、必要になってくるのではないでしょうか。

佐々木:元々のCCUSの狙いは、ある一定レベルにある職人は「社会的に尊敬される価値のある人間なんだ」と示す一つのもの、評価する仕組みとして始まっております。それに伴って評価が高い人=賃金が高い人とならないと意味がありません。

そのために、マイスター制度と同じように、業種は色々あるものの、建設業のゴールドカードが世間一般の誰にでもわかるものにしていかなければならないと思います。

御社のマッチングサービスでも、CCUSを活用していただいておりますが、私としては、『CCUSに登録している=信頼できる職人の証』となってもらえたら嬉しいです。

人を求める人 × 仕事を求める人のマッチングが信頼のおける人 × 信頼のおける会社の信頼のあるシステムによるでマッチングになることを望んでいます。

北川:ありがとうございます。私たちの懸念としては、現場で働いたことがない職人をいきなり現場に入場させるのは安全性などのリスクが大きすぎると感じる方がいるということです。

CCUS認証が信頼性の証となれば、「CCUS評価+アプリ内評価」を可視化することでマッチングサービスへのハードルも低くなるのではないかと思いました。

後編も公開しております。ぜひご覧ください!


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  1. (例1)出所:助太刀総合研究所 【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  2. (例2)【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  3. (例3)助太刀