住宅業界に吹く追い風 ― 新しい価値を生み出す人材革命

建設業界における人手不足は、近年ますます深刻化しています。特に住宅分野における建設技能者の不足は、今後の住宅供給や産業の持続性に大きな影響を及ぼす重要な課題です。
こうした現状を受け、国土交通省では住宅分野の建設技能者確保に向けた中長期的な方策を検討するため、有識者による「住宅分野における建設技能者の持続的確保懇談会」を設置し、2025年2月5日に第1回会合を開催しました。
今回は、第1回懇談会の内容と議論のポイントを整理し、解説していきます。
<この記事のポイント>
- 住宅分野の建設技能者、とりわけ大工は急速に減少と高齢化が進行し、将来的な担い手不足が懸念されている。
- 建設業界は依然として労働環境が厳しく、若年層の参入・定着が大きな課題となっている。
- 生産性向上のための省力化技術は普及しているものの、依然として人材不足が住宅供給能力の低下を招いている。
- 各省庁は教育・雇用支援、処遇改善といった多角的施策を展開し、人材確保定着に努めている。
- 産学官の連携強化と具体的な対策の策定を通じ、持続的な技能者確保に向けた取り組みが進められている。
当日のアジェンダは以下となります。
(1)住宅分野における建設技能者を取り巻く現状
(2)関連施策の紹介(文部科学省、厚生労働省、国土交通省)
(3)蟹澤委員からの報告
(4)意見交換
<住宅分野における建設技能者を取り巻く現状>
1. 建設技能者(特に大工)の現状
・建設・土木作業者は1995年以降減少傾向にあり、20年間で約30%減少。大工は約20万人と、20年間で半減している。
・大工の高齢化が進行し、60代後半がピーク。50歳以上が約60%、60歳以上が約40%を占めている。
・若年層の入職が不足しており、2050年には大工数が現在の約3分の1まで減少する可能性がある。
・女性の建設技能者は増加傾向だが、大工における女性比率は依然として低い。

2. 職場環境の現状
・建設業の労働時間は全産業平均より年間約60時間長い。
・完全週休2日制の導入率は全産業より13ポイント低くなっている。
(建設業40.7%、全産業53.3%)
・年間休日は全産業平均116. 4日に対し、建設現場は99. 4日と少ない。
・死傷者・死亡者数は減少傾向にあるが、死亡者の全産業比率は約3割と高い傾向にある。
・新規高卒就職者の3年以内離職率は約45%で、全産業より高止まりになっている。
・OFF-JT(集合研修)の比率は高いが、OJT(現場育成)の比率は低い状況である。

3. 効率化・省力化の現状
・木造軸組工法のプレカット(工場加工)率は約9割に達し、現場の省力化が進展している。
・プレカット工場による現場施工支援サービスも拡大中だが、人員確保に課題が残っている。
4. 今後の住宅生産能力の予測
・住宅生産能力は、大工数・働き方改革・生産性向上の影響を受けると仮定し予測。
・2050年には住宅生産能力が現状比で最大57%、最小31%まで減少する恐れがある。
・供給力不足の場合、新築戸建ての供給が需要の3〜5割程度にとどまる可能性も指摘されている。
<関連施策の紹介(文部科学省、厚生労働省、国土交通省)>
【文部科学省】
・少子化により15歳人口は令和20年に約74万人(令和5年比で約31%減)となる見込みである。
・工業高校の科目として大工に関する科目もあり、実際に木造軸組製作や鉄筋組立等を授業として実施している。
・産学連携による人材育成(マイスター・ハイスクール等)や、DX・デジタル分野への対応(DXハイスクール等)を推進。
【厚生労働省】
・建設業は高齢化が進み、若年層の確保・育成・定着が急務である。
・トライアル雇用助成金や人材確保等支援助成金、建設キャリアアップシステム活用促進など、雇用・育成・職場定着を支援している。
・高校生や先生、保護者向けに出前授業・現場見学・インターンシップ等を実施し、業界理解を促進している。
【国土交通省】
・賃金や労働時間などの処遇改善、労務費・必要経費の確保・明示をルール化。
・建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及で、経験・技能に応じた処遇を実現。
・時間外労働の上限規制、週休2日導入、ICT活用による業務効率化を推進。
・若者・女性・外国人技能者の入職促進と多様な人材の活躍推進。
・産学官連携による人材育成や、災害時の人材確保体制の強化。
<今後の予定>
今後のスケジュールは以下の通り計画されております。
令和7年11月の住生活基本計画の中間とりまとめへの反映を目指して議論されていきます。

<まとめ>
第1回懇談会では、住宅分野における建設技能者不足の現状や課題、関係省庁の取り組みについて幅広く意見交換が行われました。高齢化や若年層の入職不足、職場環境の厳しさなど深刻な問題が明らかになりましたが、各省の施策や産学官連携による人材育成の方向性も示されました。
今後は、より具体的な対策の議論が進められる予定です。特に、労務費の適正化や処遇改善が進展することで、技能者の働く環境が向上し、建設業界にとって大きな追い風になることが期待されます。
今後の議論の進展と、実効性ある施策の実現に注目していきたいと思います。

助太刀総研 運営事務局
Sukedachi Research Institute