2025年12月12日施行「標準労務費」の概要と建設業界への実務的影響
はじめに
2025年12月12日より、国土交通省による「労務費に関する基準」いわゆる「標準労務費」の運用がいよいよ開始されます。この制度は、技能労働者の賃金水準を技能レベルごとに明示し、建設業における適正な労務費の確保と、ダンピング(不当廉売)受注の防止を目的とした施策です。
本レポートでは、施行直前における制度のポイントと、建設会社(元請)、協力会社(下請)、そして技能労働者、それぞれに生じる実務的な変化について整理・解説します。
標準労務費とは(制度の位置づけ)
標準労務費とは、中央建設業審議会(中建審)が勧告する、職種・技能レベルごとの「支払われるべき賃金の基準額」のことです。
従来と新制度の決定的な違いは、その算出根拠と目的の変更にあります。

<制度の骨子>
・技能レベル別の明示
全51職種(予定)に対し、技能レベルに応じた賃金水準が提示されます。
・見積書への反映義務
建設業法の改正により、標準労務費を下回る見積りや契約の制限が強化されます(著しく低い労務費による見積りの禁止)。
・官民共通の尺度
公共工事だけでなく、民間工事においても適正な価格転嫁の根拠として機能します。
技能レベル評価制度(CCUS)との連動
標準労務費の最大の特徴は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価基準と連動している点にあります。 具体的には、技能者の能力を以下の4段階に区分し、それぞれのレベルに対応した標準的な労務費が設定されます。

これにより、「経験年数」や「保有資格」といった客観的な要素が、ダイレクトに賃金水準(単価)へと反映される構造が確立されます。
制度施行後の実務的な変化
本制度の施行により、建設現場の実務には以下の4つの変化が生じると予測されます。
⒈見積り・契約協議の適正化
「相場」という曖昧な基準から、国が定めた数値根拠に基づく協議へ移行します。これにより、不当な買いたたきの抑止が期待されます。
⒉賃金体系の可視化と整備
特に協力会社においては、技能レベルに応じた自社の賃金テーブル整備が、人材確保の観点からも不可欠となります。
⒊公共工事における予算確保の確実性
発注機関は標準労務費を参考に予定価格を算出するため、労務費予算が従来以上に手厚くなる見通しです。
⒋民間工事における価格転嫁の根拠
民間発注者に対し、物価上昇や賃上げ要請を行う際の強力なエビデンス(法的根拠)として活用が進みます。
各ステークホルダーへの影響とメリット
1. 建設会社(元請)
・コンプライアンスの強化
標準労務費を遵守した見積りを採用することで、建設業法違反(不当に低い請負代金)のリスクを回避できます。
・優良な協力会社の確保
適正な労務費を支払う姿勢を示すことで、技術力の高い協力会社との信頼関係(エンゲージメント)を高められます。
2. 協力会社(下請)
・交渉力の向上
「標準労務費」を根拠とすることで、自社の見積額の正当性を論理的に主張できます。
・経営の安定化
技能レベルに応じた適正単価を受領することで、原資不足による経営圧迫の解消につながります。
3. 技能労働者
・処遇の改善
ご自身のスキル(CCUSレベル)に見合った賃金が得られやすくなります。
・キャリアパスの明確化
「レベルを上げれば賃金が上がる」という道筋が見えることで、資格取得や技術研鑽へのモチベーション向上に寄与します。
まとめ
12月12日から施行される「標準労務費制度」は、建設業における競争のあり方を「価格競争」から「価値競争」へと転換させる重要な制度です。
技能労働者の賃金水準を可視化することは、単なる賃上げの手段にとどまらず、産業全体の魅力向上と若手入職者確保の基盤となります。今後、実務においては以下の対応が重要となるでしょう。
・見積り根拠の明確化と提示
・契約単価の透明性確保
・社内賃金規定と技能レベルの紐づけ
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<参考文献>
・国土交通省「労務費の基準(標準労務費)作成に関する検討状況」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001898871.pdf
・国土交通省「労務費の基準に関するワーキンググループ資料」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001841969.pdf
・国土交通省「公共工事設計労務単価」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000217.html
・国土交通省「技能者処遇改善に関する取り組み」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000111.html

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