建設業の人材獲得難易度と賃金水準のトレンド
建設業界では他の業界と同じく人手不足が続いており、新たな入職者の確保や長期的に働ける環境づくりは企業にとって喫緊の課題となっています。本記事では、建設業界の技能者の人手不足の状況と今後のトレンドについて、統計データならびに2023年に助太刀総研が実施した建設業実態調査を基に調べてみました。
建設業の有効求人倍率は依然として高水準が続く
建設業の有効求人倍率をみると、2024年2月は5.25倍と非常に高く、他職業の中でも保安職業従事者(自衛官や警察、消防、警備など)に次いで2番目の水準です。(図1参照)
図1.2024年2月有効求人倍率
また2013年から2023年までの10年間での推移を見ると、職業計と比較しても非常に高く倍率の伸びも大きなものになっています。(図2参照)
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により下がったものの、2022年には上昇に転じ2019年水準を上回る推移を見せています。
図2.有効求人倍率の推移比較
建設・採掘の職業を、細分化して、建設躯体工事の職業、建設の職業、電気工事の職業、土木の職業の4つで見てみると、建設躯体工事の職業は有効求人倍率が9.7倍に達しています。これは全職業分類の中でも最も高い数字となっています(図3参照)
図3.建設・採掘の職業の有効求人倍率推移の詳細
拡大を続ける建設需要と減少する労働者
今度は、建設需要について見てみましょう。
一般財団法人建設経済研究所の発表した建設投資の見通しでは、2023年(見通し)の建設投資(名目値)は71兆9,200億円で前年比4.6%の成長となり、2024年は72兆4,100億円の見通しとなり前年比0.7%で成長率はやや低下するものの継続投資は旺盛な状況であると言えます。
需要に対して供給サイドがどうなっているかみると建設業の新規求職者数は長期的に減少傾向にあり、新型コロナウイルス感染症発生の2020年から2021年にかけては上昇したものの、再び減少のトレンドとなっています。(図4参照)
図4.建設・採掘の職業の新規求職申込件数の推移
また2013年を基準として2023年までの10年間での新規求職者数の推移を見てみると、10年前と比べると2023年は52%と半減しています。(図5参照)
職業全体で見てみても減少トレンドであることには変わりありませんが、全体では10年前に比べ70%となっており、建設業は業界全体に比べても新規求職者数の減少トレンドは大きく、前述した建設投資の拡大を加味すれば、供給不足の程度が大きくなることが想定されます。
図5.新規求職申込件数の推移比較
建設業の賃金は上昇しているがそれ以上の魅力づけが必要
建設業への入職者を増やしていくには、少なくとも待遇含めた処遇の改善が必要であると思います。
助太刀総研で建設業従事者に建設業で働き始めた理由を調査したところ、周囲に建設従事者がいたからという回答に次いで多かったのは「収入が魅力的だから」というものでした。(図6参照)
知り合いから誘われるなど建設業界の入職理由で多い縁故での入職以外に、収入に魅力を感じて働く人も多いのです。
年齢に分けてデータを見てみると、年齢が上がるにつれて収入を理由に上げる人の割合が上がっています。これは50代以上の方が働き始めた頃は建設業で得られる収入が魅力的であったが、現在の20代、30代には収入に対して魅力を感じておらず、他の業界とのとの競争力で劣後してしまっているということではないでしょうか。
図6. 建設業で働き始めた理由
近年、人手不足が叫ばれ処遇改善の必要性が認識され始めている流れになっていますが、実際の採用環境ではどの様になっているのでしょうか。
助太刀総研にて、株式会社助太刀が運営する求人サイト「助太刀社員」に掲載されている社員求人票の年収水準について調査してみました。
「助太刀社員」の新規掲載求人の平均単価は2020年に比べて2023年は+17%になっており、株式会社助太刀が「助太刀社員」を開始した2020年から年を追うごとに新規掲載求人の単価は上昇を続けています。(図7参照)
図7.「助太刀社員」新規掲載求人の平均給与推移(2020年7月〜2023年12月)
また年平均の上昇率をみると年平均で+5.3%の上昇水準となっています。
単純比較は難しいですが、「内閣官房 新しい資本主義実現本部」が公表している連合の調査による賃上げ率推移の中では、全体賃上げが+3.58%となっており、全体に比べても上昇していると取れるのではないかと思います。
また公共工事設計労務単価も年々上がってきており、令和6年は前年度比5.9%引き上がられることになり、マーケット全体で職人さんを中心とした待遇改善の流れができているように思います。(図8参照)
全体の流れに反してこれまでの単価での発注を続けていたり、社員の待遇や働く環境に関する魅力度をあげていくことに対して会社として注力していけなければ、これまで以上に不足が続くということになるかと思います。
図8.公共工事設計労務単価の推移
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、2023年の出生数は75万人と2年連続で80万人を切り、人口減少のトレンドが加速しています。これまでは需要の拡大に伴う人手不足でありましたが今後はそもそもの供給力が減少していくという流れになります。
需給バランスの改善にはICTを活用した建設DXによる生産性の向上に取り組むだけでなく、クローズドな中で行われてきたマッチングを最適化することで社会全体で効率的な配置を実現すること、処遇を改善し建設業に入職する人を増やしていくことが肝要です。
そのためには、競争環境を可視化すること、他業界と比べても遜色のない待遇や働き方に変えていく必要があると思います。
助太刀総研 運営事務局
Sukedachi Research Institute