レポート

キャリアから考える建設業の実態とその取り組み

総務省「労働力調査」(令和4年平均)によれば、これからの建設業を支える29歳以下の建設技能者の割合は全体の約12%程度であり、若年入職者の確保・育成が喫緊の課題となっています。
一般的に建設業界には、いわゆる「3K」(「きつい」「汚い」「危険」)という悪いイメージが今なお根強く残っており、就活市場においても新規入職者にとって人気の業界であるとは言い難い状況です。
地域インフラの整備、維持管理等を支えるとともに、災害時には最前線で安全・安心の確保を担う「地域の守り手」としての役割として、若者が希望を持てる魅力ある建設業界への変革が必要であると考えます。
本稿では、若年層のキャリア形成という観点から建設業の実態とキャリアパスの明確化に向けた取り組みについて考察します。


建設業の現状

まずは、建設業の現状について見ていきます。

厚生労働省が実施した雇用動向調査では2022年度の入職者は約22万人であり、2002年度との比較で入職者が約60%減少しています。(図1参照)

図1.建設業への入職者数

出典:厚生労働省「雇用動向調査」を基に助太刀総研にて作成

また、厚生労働省が実施した新卒学卒者の離職状況調査では、建設業における新卒入職者の3年目までの離職率は、大卒者で約30%、高卒者で約40~50%で横ばい傾向にあり、製造業に比べて、高卒者で約15%、大卒者で約10%も離職率が高い結果となっています。(図2参照)
この結果から新規入職者が横ばいの中で他業界に比べて離職率が高いということは、入職者が他の業界に転職している可能性が高いことを示しています。

図2.新卒学卒者の3年以内離職率

出典:厚生労働省「新卒学卒者の離職状況」を基に助太刀総研にて作成

収入面を見ると、助太刀総研で実施した調査でも80.2%の方が過去一年間で「年収が上がっていない」というデータがあります。(図3参照)
構造的な問題もあると想定されますが、受注した現場や企業間の関係性、相場によって1日あたりの単価が決定されている可能性が高く、建設業においてはスキルや経験によって給与が上昇するような給与体系が整備されていない可能性があると考えます。


図3.過去1年の年収増減状況

助太刀総研 2023年度建設業実態調査(n=382)

次に入職者側の企業選び、定着に関する調査を見ていきます。

リクルートキャリア就職みらい研究所が新卒者を対象に実施した就職プロセス調査(2024年卒)「2023年12月1日時点 内定状況」の調査を見ると就職先を確定する際に決め手となった項目は「自らの成長が期待できる」と回答した方が50.9%と最も多いようでした。
また、オープンワークが実施した調査では、新卒若手社員が感じる入社後ギャップとして、43.0%の方が成長環境やキャリア開発についてギャップを感じたと回答しています。
これらの調査は産業別に分類したものではありませんが、建設業においても同様の状況であると想定されます。

以上のデータから、建設業でも次世代を担う層への成長環境の提供が重要であり、成長の道筋を示し業界全体で育成していくことが持続的な担い手確保において重要でしょう。

キャリアパスの魅力とメリット

キャリアパスの定義と重要性

そもそも、キャリアパスとは、日本語に直訳すると「キャリアを得るまでの道」という意味になります。すなわち目指す職位や職務に対して、それに至るまでに必要な経験やスキル、資格などを明示して個人が主体的に個人のキャリアを計画するものを指すといえます。

キャリアパスがもたらす個人と企業へのメリット

キャリアパスの整備は、個人にとってはスキル向上とキャリアの明確化を促進し、職業生活の安定と満足度を高めます。また、企業にとっては、優秀な人材の確保と育成、そして離職率の低下につながります。具体的には、以下のようなメリットがあります。


【個人のメリット】

  • スキルの体系的な向上
  • キャリアの方向性が明確になる
  • モチベーションの向上

【企業のメリット】

  • 人材育成の効率化
  • 従業員の定着率向上
  • 組織全体のスキルレベル向上

建設業におけるキャリアパス

建設業においては、国土交通省の主導でキャリアパスモデルの活用、建設キャリアアップシステムの活用推進に関する取り組みが拡大しています。二つの取り組みについて以下で解説します。

キャリアパスモデルの活用

建設業界においては国土交通省が2017年7月にキャリアパスモデル見える化検討会を設置し、主として新規学卒者を対象として活用されることを念頭においたキャリアパスモデルを設計しています。このキャリアパスモデルの中では、現場から工場・事務所あるいはマネジメント的な役割を担う仕事等への配置換えや転職・独立・出向などの道筋が示されています(図4参照)。

図4.キャリアパスモデル(鉄筋工事業)

出典:国土交通省「キャリアパスモデル見える化検討会」

建設キャリアアップシステム

建設キャリアアップシステム(Construction Career Up System。以下CCUS)は、一言でいうと、建設技能者の保有資格・社会保険加入状況や現場の就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積して見える化し、情報活用をできるようにする仕組みです。

技能者の能力・経験等を見える化することで、技能者の能力・経験等に応じた適正な処遇改善につなげていくこと、技能者を雇用し育成する企業が伸びていける業界環境をつくることを目指し、若い世代が安心して働き続けられる建設業界を目指すものです。

CCUSでは 2023年6月に、2022年10月の公共事業労務費調査で把握した技能者の賃金実態を踏まえ、能力評価(レベル判定)を行っていない技能者も相当するレベルに振り分けた上で試算したCCUSレベル別年収を公表しました。(図5参照)

厚生労働省が発表した令和4年賃金構造基本統計調査によれば、管理部門職の平均年収は527万円であり、CCUSのレベル別年収のレベル2相当であることが確認できるため、給与レベルについては他産業と遜色ない給与水準であると考えます。

図5.CCUSレベル別年収の概要

出典:国土交通省「建設キャリアアップシステム(CCUS)におけるレベル別年収の公表」

このレベルは就労年数や資格によって分類されており、鉄筋工を例に挙げるとレベル2の必要要件は就業日数 3年(645日)以上、保有資格は玉掛け技能講習の保有と明示されています。(図6参照)

図6.能力評価基準【鉄筋】

出典:国土交通省「建設キャリアアップシステム(CCUS)におけるレベル別年収の公表」

これまで明確でなかった建設業の報酬体系について、スキル、給与レベルについて一つの目安となるのではないでしょうか。

まとめ

建設業界における若年層の入職者不足は、業界全体の持続的な成長と競争力向上にとって大きな課題です。
次世代を担う若者は就労条件だけでなく成長環境を求めています。

企業側はキャリアパスを明確に設定し、若手社員に対して成長の道筋を示すことで、優秀な人材の確保と育成、そして離職率の低下を図ることができます。一方で、個人もこうした制度があることを理解し、自身のキャリア形成に積極的に活用することが重要です。今後、これらの取り組みが進展することで、建設業界全体のスキルレベルが向上し、より魅力的な職場環境が整備されることが期待されます。


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  1. (例1)出所:助太刀総合研究所 【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  2. (例2)【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  3. (例3)助太刀