レポート

【独自調査】建設業の中途採用状況調査

助太刀総合研究所は、直近1年間に中途採用活動の実績のある責任者および担当者172名を対象に、中途採用の状況について調査しましたのでその結果を公開します。

調査概要

調査概要

調査結果(サマリ)

  1. 中途採用実施理由は受注拡大のためが最も多く、旺盛な建設需要は継続
  2. 中途採用予算は200万円未満が80%。ただし採用成功している企業の25%は200万円以上の予算を確保
  3. 採用経路は人伝て(縁故)が多いが、採用成功している企業は求人広告、企業ホームページへ注力
  4. 採用施策は未経験採用、給与水準、休暇の整備、寮・住宅手当ての整備が有効

調査背景

建設業の就業者数は1996年の685万人をピークに減少を続けている一方、建設市場における投資額は底となった2010年の42兆円から、東日本大震災の復興需要や民間設備投資の回復により直近は60兆円程度まで右肩上がりで増加しており慢性的な人手不足となっています。
雇用動向調査によれば、令和4年(2022年)の建設業の入職者数は220千人、離職者数は287千人となり2012年以降で初めて入職者が下回る結果となりました。今後の人口動態を鑑みると労働供給の制約により構造的な人手不足は継続すると想定される中で、自社の採用の巧拙が経営に直接的に影響する課題となってくることは明白です。
取引先の開拓と同様に重要な経営課題となる自社の社員採用について、建設事業者はどのように採用活動に取り組んでいるのか調査し実態を明らかにし公表することで、業界全体の採用活動向上への示唆を得たいと考えています。

中途採用の状況

中途採用の実施理由

中途採用実施理由を複数回答で聞くと、「受注拡大のため」が73.3%と最も高く、事業拡大のための積極的な採用方針が確認できた。一方で「社員の労働時間の抑制のため」という働き方改革、2024年問題への対応と想定される理由も28.5%と高くみられ、高齢化に伴う定年や引退への対応といったリスク回避の観点での理由も一定程度回答された。(図1)

中途採用の実施理由
図1.中途採用の実施理由

ー地域別にみる中途採用の実施理由

地域別に見ると、東京圏では「社員の労働時間の抑制のため」の採用が他地域よりも相対的に高い。また中部圏では他地域よりも積極的な受注拡大のための採用理由が高くなっている。
一方、その他都市圏以外の地域では、「退職者の人員補填」や「社員の定年職人の引退に備える」という理由が高く、人手不足感の地域差が見受けられる結果となった。(図2)

中途採用の実施理由:地域別
図2.地域別の中途採用の実施理由

ー職種別にみる中途採用の実施理由

職種別に見ると、土木職種は積極的な採用理由が他より高く、活況であることが伺える。施工管理・設備は他職種よりも社員の労働時間抑制の理由が多く、技術者への対応も影響が大きいと想定される。(図3)

中途採用の実施理由:職種
図3.職種別の中途採用の実施理由

中途採用の人数

直近1年間の中途採用人数を聞いたところ、90%が3名以下の回答となり43%は一人も採用できなかったと回答。
今回の調査回答者の82%が20人以下の事業者であることを鑑みると、小規模事業者の採用難易度の高さが伺える。(図4)

中途採用の人数
図4.中途採用の人数

ー職種別にみる中途採用の人数

職種別に見ると施工管理は採用できなかった割合が最も高く、設備・電気は大きく採用できている事業者も見受けられる。(図5)
厚生労働省の令和6年6月の一般職業紹介状況を見ると有効求人倍率はそれぞれ、建築・土木・測量技術者が5.02倍、建設躯体工事従事者が8.38倍、電気工事従事者が3.13倍、土木作業従事者は5.48倍となっており大幅に人が足りていないことがわかる。
特に建設躯体工事従事者については、職業全体で見ても2番目に有効求人倍率が高く、採用難易度が極めて高い。

また施工管理は残業時間の上限規制を受ける労働者も多く求人は増えていくと考えると採用難易度は相対的に高い。

参考:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和6年6月分)について

中途採用人数:職種別
図5.職種別の中途採用人数

中途採用にかかった時間

中途採用にかかった時間は4ヶ月以内が約70%、30%は1ヶ月未満と概ね平均2ヶ月程度で採用を進めていると想定される。
これは、図10.中途採用の獲得経路でも示している、獲得経路として人伝て(縁故)が最も多いことも影響しているのではと考えられる。
一方で、1年以上経過後に採用となるケースも11%存在し採用活動を継続的に行うことで採用につながっている。(図6)

中途採用にかかった期間
図6.中途採用にかかった期間

中途採用の応募件数

採用の募集期間における応募件数を見ると、応募数は3名以下が90%となり、約30%が応募が1件もなかったと回答している。
これを応募ができた企業とそうでない企業を比較すると、採用できた企業のほうが1−3名の応募が多い。ただし採用できなかった企業でも応募数は1-3名が78%を占めていることを鑑みると、応募後の採用プロセスや採用の要件が応募から採用へつなげるポイントではないかと想定される。(図7)

採用期間中の応募件数
図7.採用期間中の応募件数

中途採用にかける予算

中途採用にかける予算は200万円未満が80%を占めている。人伝て(縁故)やハローワークが採用経路の大半であるため、採用予算をそこまでかけずともこれまでは採用ができてきたと思われる。
しかし採用の成否で分けて見てみると、採用成功している企業は200万円以上の採用予算を組んでいる企業が25%となり、採用できなかった企業に比べて9pt高い。(図8)
企業体力などによって採用予算を大きくかけることができないケースもあると思われるが、これまでの縁故やハローワークだけでは採用が難しくなっていくことを考えれば、しっかりと採用戦略を立てたうえで採用予算を確保することが必要になる。

中途採用にかける予算
図8.中途採用にかける予算

ー従業員規模別にみる中途採用予算

従業員規模別にみると、規模が大きくなれば採用予算も大きくなる。一方で4人以下の事業者でも200万円以上の予算を確保している割合が26%と、採用人数にも影響するが予算を確保して採用強化している企業も見受けられる。(図9)
株式会社マイナビの中途採用状況調査2024年版(*)によると、業界問わず従業員3〜50名規模の中途採用予算は109.1万円となり、2022年と比べて21% の企業が採用予算を前年と同じもしくは増やしたと回答しており、採用強化は規模にかかわらず共通していた。

(*出典元)株式会社マイナビ「中途採用状況調査2024年版」

中途採用予算:従業員規模別
図9.従業員規模別の中途採用にかける予算

中途採用の獲得経路について

中途採用の獲得経路について、複数回答で聞いたところ、最も多かったのは人伝て(縁故)で61%だった。続いてハローワークが49%、求人広告が31%と続く。建設業の技能労働者は人材紹介が職業安定法により禁止されていることもあり、人材紹介会社の利用は13%にとどまっている。(図10)

株式会社マイナビの中途採用状況調査2024年版によると、中途採用に関して利用したサービスは転職サイトが最も高く(53.3%)、ついで企業ホームページ(49.7%)、人材紹介会社(47.3%)と続いており、縁故に近しいリファラル採用は28.8%にとどまっている。これと比較すると、建設業の縁故での採用がいかに多いかということが分かる。

中途採用の獲得経路
図10.中途採用の獲得経路

ー採用成否ごとにみる中途採用の獲得経路

採用が成功した企業とそうでない企業を、中途採用の獲得経路ごとで見てみると、人伝て(縁故)はどちらも変わらず高く利用しているが、成功している企業では「求人広告」「企業ホームページ」の割合が高いことが分かる。(図11)
人伝て(縁故)だけに頼らず、加えて広く募集することが可能な求人広告や自社のホームページでの積極的な発信を行うことで採用成功につながっている。

中途採用の獲得経路:採用成否
図11.採用成否ごとの中途採用の獲得経路

また採用の獲得経路についてそれぞれ有効かどうかを評価してもらったところ、人伝て(縁故)が最も高く、過去来から有効であると捉えられている。その他経路の平均Ptにおおきな違いは見られないが、SNSは有効と感じている事業者がやや多く、うまく活用することで採用費を抑えながら、新しい採用経路として活用が可能だと思われる。(図12)

中途採用の獲得経路の評価
図12.中途採用の獲得経路の評価

採用を成功させるには

採用を成功させるために取り組んでいることを複数回答で聞いたところ、未経験採用が最も高く(53%)、続いて直行直帰OK(48%)、給与水準を相場より高くしている(44%)と続いた。
給与や福利厚生を強化している企業は多かったが、「人事評価制度を整備している」は9%、「研修制度を充実させている」は6%と教育・育成に関しては強化している企業は少ない結果となった。(図12)

採用のために取り組んでいる施策
図12.採用のために取り組んでいる施策

ー採用成否別の採用のために取り組んでいる施策

取り組み施策について、採用できている企業とそうでない企業を比較したところ、未経験採用をしているかどうかで15ptの差があった。また「給与水準を相場より高くしている」「年間休日の整備」「寮完備、住宅手当てを支給している」について採用成功している企業のほうが高い結果となった。(図13)

やはり、給与や福利厚生、働き方を改善している企業は採用が進んでいると見られる。

また人事評価制度は採用成功している企業のほうが5ptではあるが高く、未経験でも採用を積極的に行い、研修を行い、人事評価でキャリアを築いていける企業は採用がうまくいっていると言えそうだ。

採用のために取り組んでいる施策
図13.採用成否別の取り組んでいる施策

調査を振り返って

本調査は人手不足により採用難易度が他の業界よりも高い建設業の採用状況について明らかにすることを目的に行いました。

採用経路はいまだに人伝てが最も多く、また有効であると捉えられています。
知り合いからの紹介のほうが人柄などが事前に分かることで信頼できるということは確かです。しかし、今後の労働供給制約の中では、知り合いからだけでの紹介では必要なときに採用することが難しくなっていくと思われます。

他業界では、転職サイトやダイレクトリクルーティング、企業説明会など多様な採用経路を使い採用活動を行っています。
また近年採用広報という求職者に対して自社の魅力を発信していく活動をしている企業も多数あります。
そういった中途採用全体のトレンドを捉え、人伝てだけに頼らない多様な採用経路を確保することで採用力を高めていく努力が必要ではないかと思います。

本年は2024年問題への各企業の対応も注目され、賃金の行き渡りなど労働者に対する各社の対応如何によって選ばれる企業とそうでない企業の二極化が進むことも想定されます。

助太刀総研は今後も建設業で働く人にフォーカスして調査、発表してまいります。


調査報告書全文

調査結果詳細


助太刀総研 運営事務局

Sukedachi Research Institute

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  1. (例1)出所:助太刀総合研究所 【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  2. (例2)【2023年度】助太刀総研 建設業実態調査結果について
  3. (例3)助太刀